陽広さんと服の話
陽広(はるひ)さん(脳性麻痺、12才男子)のお母さまに、陽広さんの服の工夫・悩み・おすすめ・こだわりについて聞きました。
質問:あなたの基本情報を教えてください
障害種別は、脳性麻痺による上肢機能障害と体幹機能障害です。
歩くことはもちろん、座ることもできません。日常は、座位保持装置(身体を支える)付きの車いすを使用しています。食べること、移動すること、洋服の着脱、排泄や入浴など全て介助が必要です。
自分で動くことができないため、体温調節が難しいです。暑い時や寒い時、また場所によって温度が変わる時など、工夫が必要です。夏は背中に空調座布団をいれたり小型扇風機を使用、冬はひざかけや手袋や帽子などを常に持ち歩く、などしています。
身長は140㎝、通常選ぶ服のサイズはトップス・ボトムスともに150~160です。
小さい頃に触覚過敏があったため、現在でも洋服の素材や生地の肌触り、タグなどに対して敏感です。
おしゃれでカッコいい服を着せてあげたいと思いつつも、「着替えさせやすいかどうか」「排泄がしやすいかどうか」「体温調節がしやすいかどうか」など、介助者の都合や身体のことが優先させてしまうので、息子の思いを大事にした洋服選びができずにいます。
排泄時に尿瓶を使うので、ファスナー付きのボトムスをはいています。ファスナー付きのボトムスは、きっちりしている生地が多く、寝たままの状態ではかせると、しっかり腰まであげられず、苦労しています。
服の着脱は全て介助者(基本的には母です。学校や放課後等デイサービスでは、先生やスタッフさん)が着替えさせます。
(1)床の上に仰向けに寝ている状態で、インナーやTシャツ、ボトムス等は着させます。
(2)Tシャツなどは、左右に身体の向きを変えて、片手ずついれながら、整えます。
(3)ボトムスは、仰向けではかせた後に、うつぶせにして、おしりや腰の部分を整えます。
(4)アウターは、車いすに座った状態で着せています。
(5)シューズは基本的に短下肢装具(身体の緊張から、足先が内側を向いたり、変形したりするのを防ぐために、足首を固定する本人にカスタマイズした物)を使用しており、時々イベントがあると22㎝の靴をはかせます。
質問:お気に入りのトップスアイテムと、その理由を教えてください
GLAZOSの天竺ドロップショルダーポケット長袖Tシャツがお気に入りです。
袖口が閉じているので、風が入りにくく、体温が下がりにくいです。襟ぐりや袖口がしっかりしており、綿100%で着心地がよいです。
質問:お気に入りのトップスアイテムと、その理由を教えてください
ユニクロのライトウォームパデットパーカがお気に入りです。
フードの取り外しができます(車いすに頭を支えるヘッドレスがついているので、基本的にはフードなしで使います。でも、寒い時にはフードが欲しいので、取り外しができるのは助かります!)。柔らかくて軽くて暖かくて着心地がよいです。また、名前を書けるタグがついているのも助かります。
質問:お気に入りのボトムスアイテムと、その理由を教えてください
GLAZOSのスリムストレッチツイルチノパンツがお気に入りです。
アジャスターゴム仕様なので、本人の体型に合わせられます。ストレッチツイル素材なので、しっかりしていますし少し伸びるので、はかせやすいです。色が10色用意されていて、好きな色が選べるのも嬉しいですね。
質問:お気に入りのボトムスアイテムと、その理由を教えてください
ユニクロのウルトラストレッチデニムジーンズ(スリムフィット)がお気に入りです。
アジャスターゴム仕様なので、本人の体型に合わせられます。またストレッチ素材なので少し伸び、はかせやすいです。
質問:おすすめのバッグと、その理由を教えてください
協和の ふわりぃ障がい児用オーダーメイドUランドセルです。
「車いすユーザーだけれども、小学校にはランドセルで通いたい!」という方におすすめです。オプションの「車いす用フック」で、車いすにランドセルをつけることができます。
質問:お気に入りのシューズと、その理由を教えてください
アシックスのスクスク(ハイカット)がお気に入りです。
ハイカットなので、足首の保護がしっかりしています。 また、ベロの部分を前に出すことで履き口が広げられ、足を入れやすいです。
質問:お気に入りのインナーと、その理由を教えてください
PUMAの綿100%半袖Tシャツがお気に入りです。
袖周りや襟ぐりのサイズ感が大きく、脱ぎ着しやすいです。
質問:もう1つ、お気に入りのアイテムを教えてください
吉祥寺の靴下屋さんで購入したルームシューズがお気に入りです。
短下肢装具の前側が空いているので、寒い時の防寒具として使用していますし、軽いので持ち運びにも便利です。
質問:店舗で服を買物する際の工夫を教えてください
最近はコロナの感染が怖いので、お店に連れて行くのを控えています。また、近場に子供用の服を扱っている店舗が少なく、普段着はインターネットで購入しています。
特別な服(スーツ等)はお店に買いに行きますが、試着が難しいので(車いすのまま入れる試着室がない、広めの試着室でも横に寝られるスペースがないと着替えができない)、できるだけアジャスター仕様のボトムスを買うようにしています。
質問:通販で服を買物する際の工夫を教えてください
商品の説明(生地の特徴や袖・襟まわりのこと)をよく読んだり、部分的な商品画像(特にボトムスはファスナー付きか、アジャスター仕様かなど)を細かくチェックしています。また、返品・交換対応をしてくれる所を選ぶようにしています。
質問:服やファッションの情報をどのように収集していますか
インターネットでの検索やお店からの情報が中心です。
質問:服に関することで、何か要望や願望はありますか
ユニクロから「前開きインナー」が発売された時、ママ友のSNSは大騒ぎでした。「待ちに待っていた商品が出た!」「我が子に着せたい!」「着脱の介助が楽になる!」様々な声が飛び交っていました。肢体不自由の子供達は、既製品での対応が難しく、親が加工をして着せやすくしていることも少なくありません。そんな中で、自分たちが手を加えなくても、子供達が使いやすいインナーが発売されたことは、嬉しい出来事でした。
衣類をつくっている方々には、ぜひ、「腕をあげることが苦手な人のための衣服」「脱ぎ着が楽にできる衣服」「皮膚刺激が少なく肌触りがソフトな衣服」「重量が軽くて、変形した身体を圧迫しない衣服」…そんな優しい衣服を作っていただきたいと思います。個人的には、「肩部分がファスナーで、袖が外れ、ベストとしてもジャンパーとしても使える着脱しやすいアウター」とか、「股上の背中側がすごく深いボトムス」とか作って欲しいですが…。
着替えやすい衣類が増えれば、当事者も介助する人も楽になります。気持ちが楽になれば、おしゃれを楽しみ、外へ出かけ、生活に彩りを加えることができるのではないでしょうか。
また、ユナイテッドアローズ041ブランドは、車いすユーザー当事者が、デザイン段階から企画に参加したと聞いています。インクルーシブデザインによって、障害があってもなくても、欲しくなるような衣服が作られました。これからの時代、洋服作りにも、障害当事者が企画に参加できる社会になり、そこから生まれた優しいデザインの衣服が、普通に店頭に並ぶ世の中になることを願っています。
質問:最後に、読者の方にメッセージをお願いします
息子の洋服選びは、「安全であること」「脱ぎ着がしやすいこと」「肌の過敏さが受け入れられる物」などの条件が優先されています。でもそこには、「着てみたい」「かっこよくなりたい」「おしゃれを楽しみたい」という本人の思いを忘れてはいけないと思っています。
2020年3月に、私は友人達と一緒に「一般社団法人 こみゅと小平」という法人を立ち上げました。障害児者のスポーツや就労、生活の支援をしています。その中で、手芸の得意な友人が「こみゅと工房」を開き、洋服や生活雑貨の加工を行なっています。既製品では、なかなか着せてあげられなくても、加工したり工夫したりすることで、おしゃれを楽しめるように・・ということで、レンタルのスーツや羽織袴も用意しています。ご興味のある方は、ぜひHPをご覧になって下さい。
こみゅと小平(https://cmutokodaira.or.jp/)、こみゅと工房(https://shop.cmutokodaira.or.jp/)
おわりに
陽広さんのお母様、ありがとうございました!
記事の感想や陽広さんのお母様に聞いてみたいことなど、どんなことでも構いませんのでお気軽に、ぜひ下のコメント欄に記入お願いします!
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!