YUNA+さんと服の話
今回は、福岡県筑紫野市で服のお直しブランド YUNA+ (ユナプラス) を経営するミキさんと、13歳になる娘さんのユナさんのお話です。
ミキさんは、肢体不自由児であるユナさんのために前開きのお直しを6年前に始め、その後、ユナさんだけでなく他の身体の不自由な方にも前開きのお直しを提供できれば、との思いから、2年前にYUNA+を起業しました。
娘のユナさんのこと、前開きのお直しを始めるきっかけ、YUNA+のブランドコンセプト、YUNA+の名前に込められた思いを、ミキさんに聞きました。※2021年1月30日取材
■Yuna
前開きリメイクの話をする前に、まず娘のYunaの話をしないといけませんね。
Yunaは今、中学1年生です。
小学1年生の時に、溺水事故で重度の後遺症を負って、肢体不自由児になりました。
小学校に入学したての5月の連休明け、段々暖かくなってきた日の午後の出来事でした。小学校からの帰宅途中に、川に落ちて溺れてしまい、心肺停止で搬送されたんです。
心肺停止から蘇生まで、40分ほどかかりました。
奇跡的に命は助かりましたが、大脳の血流が90%近く失われ、身体を動かす機能や瞬きする機能も失われ、Yunaは自分で動くことができなくなりました。
自力で呼吸する力も弱かったため気管切開をして、Yunaは声を出すこともできなくなりました。
この前開きリメイクを始めたのは、そんなYunaのためでした。
Yunaは6歳まで毎日元気に走り回って健常児として成長していたので、肢体不自由児になっても身体はどんどん大きくなっていきます。その一方で、強い筋緊張から全身の関節が硬くなっていって肘もほとんど曲げられないため、頭からかぶせる服の着脱は難しくなりました。また気管切開をしていてカニューレを装着しているため、頭からかぶる服だと気管カニューレに引っかかってしまう危険性もあります。
なので、前開きの服しかYunaは着れなくなりました。
でも前開きの服で外着用のおしゃれなものって少ないじゃないですか。
Yunaは事故前、とても女子力が高い女の子でした。
おしゃれが大好きで、着る服は自分の好みの服じゃないと着るのを嫌がってました。髪型も、外出時は絶対にポニーテールじゃなきゃダメというこだわりようで。
元気だったYunaと6年間過ごしてきて、彼女がそんな女の子だったことを知ってるからこそ、前開きであればいいと妥協して、おしゃれじゃないものを着せたら、きっとYunaは怒るだろうなと思って。
だから、元気だったYunaの好みを意識して、YunaにOKをもらえるような可愛い服・おしゃれな服を着せ続けてあげようと決めたんです。
そこで、まずは上衣の前開きリメイクを始めました。
私は元々リメイクどころか、裁縫もほとんどやったことがなかったので、最初はインターネットでどんな風に前開きにするのかを調べて、リメイクを始めました。
リメイクをできるようになってからは、前開きじゃなくても、おしゃれが好きだったYunaが着たいって言うだろうなと思うものを買って、それを前開きリメイクして、外出する時に着せてあげられるようになりました。
下衣の前開きリメイクを始めたのは、Yunaが10歳になる頃に股関節脱臼の手術をしたことがきっかけです。
大腿骨を切断してボルトと金具で骨同士を固定して、半年そのままで過ごす期間がありました。
切断面がくっつくとボルトを外すのですが、外したボルトの穴が塞がるまでさらに1年かかると言われて、その間、ケアのたびの腰からズボンを下ろす行為による、手術後のボルト部分の骨折がとにかく怖かったんです。
下衣の前開きリメイクは、骨折リスク軽減のためズボンを下ろす行為を避けることが目的で始めました。
この下衣のリメイクの方は、独自の工夫で作り始めました。
Yunaがはいているズボンとにらめっこしながら、どこを開くようにしたらいいか、どんな素材を使ったらいいか、考えに考えて作りました。
寝たきりの方のズボンの上げ下げって、身体が大きければ大きいほど、親や介助者にとっても本当に大変な作業なんですよね。
おむつ交換は1日に6〜10回あって、その度に腰をずらしながら、ズボンの上げ下げをしないといけない。
子供の体はどんどん大きくなる一方で、親はどんどん年をとっていきます。
だから、ズボンの上げ下げをせずに、前開きのファスナーを上げ下げするだけでおむつ交換ができるようにするYUNA+の下衣のリメイクは、骨折のリスクの軽減だけじゃなく、ご家族や介助者のためのリメイクでもあると思ってます。
■YUNA+
「この服を着せたい。を叶えたい」が、YUNA+のコンセプトです。
Yunaのためだけでなく、1人でも多くの人に、着れる服ではなく着たい服を着てもらえるように、YUNA+を起業しました。
服が前開きじゃないために、可愛い服・格好いい服・着せたい服・着たい服・生地へのこだわりを諦めてる人がいるかもしれない。
前開きじゃないために、身体に負担をかけて大変な思いをしてる人がいるかもしれない。
そんな人たちにYUNA+のことを知ってもらいたい、YUNA+の前開きリメイクでお役に立ちたい、と思っています。
お客様からいただくリメイク代は、YUNA+の基本リメイクでしたら、材料費などを含めて一律、上衣1,200円・下衣2,500円です。
ケアやお体の状態に合わせてまた違ったリメイクのご相談も、ご要望をお聞かせいただいて、私にできるようでしたらリメイクしたいと思っていて、その際は金額が変わってきますが、基本リメイクはこの一律の金額です。
正直言うと、「もう少し高くてもいいんじゃない?」と言っていただくことが多いです。
でも、私はこの値段を続けていくつもりです。
なぜならYunaの上衣のリメイクを始めた時、元々最初は自分でリメイクをしようと思っていませんでした。前開きにするのを一般のリメイク店に依頼しようとしました。
でも一般のリメイク店のメニューには、一般的な裾上げやサイズ調整のメニューしか表示されておらず、私がYunaのためにしてほしかったリメイクの表示はありません。
しかも、一般的な裾上げやサイズ調整の時点でとても高い料金設定がされており、その料金から推測すると、私がYunaにしてあげたいリメイクは、とてもじゃないけど何枚も依頼できるような金額ではないことが分かりました。
着替えは各シーズンごとに、肌着も入れて数枚ずつ必要です。その枚数すべてを依頼していたら、きっとすごい金額になる。しかも下衣は特殊なリメイクです。金額もさらに上がるだろうし、そもそもそんな特殊なリメイクを引き受けてもらえるかも微妙な感じでした。
日常生活の中で着たい服をただ着れるようにしたいだけなのに、なぜこんなにお金がかかるのか。
どうしても納得がいかなくて悔しくて、それで自分でリメイクを始めたんです。
そして今。
誰もが着たい服を着れる世の中にしたい。しかも皆が依頼できるような金額で。
こういった思いからの、YUNA+の起業と価格設定なのです。
起業する際、ブランド名は、Yunaに+(プラス)を付けて、YUNA+に決めました。
Yunaの事故はただ辛く悲しいばかりではなく、大切な意味を持っているはず。
Yunaを通してできるようになったリメイクは、他の誰かのためにも役に立てるはず。
いろんな物事をプラスに変えながら進んでいきたい。
という思いからの+です。
きっかけを作ってくれたおしゃれっ子Yunaと一緒に、頑張っていこうと思っています。
YUNA+ Instagram(@yuna_plus.1987)、ブログ(https://ameblo.jp/yuna-plus/)、Facebook(Yuna Plus)
(編集後記)
ミキさん、ありがとうございました。
今回の取材にあたり、Co-wardrobe編集室でもYUNA+さんがお直ししたTシャツとボトムスを実際に見せていただきました。
トップスは材料の色や質感が元の服と完璧に合っていて、無理矢理前開きにしている感が全く無く、ボトムスも素材的にかなり難しいはずなのに上から下まで綺麗に加工されていて、やはり無理矢理前開きにしている感が無く、また内側に当て布をして肌に優しい配慮をしているなど、本当に完成度が高かったです。
誰もが着たい服を着れるお直しに本当になっていますし、何よりも、着てもらう人へのミキさんの愛を感じました。
これをトップス1,200円・ボトムス2,500円でやってもらえるのは、本当にありがたいと思いますし、誰もが納得するというかビックリするはずです。
「誰もが着たい服を着れる世の中にしたい。しかも皆が依頼できるような金額で。」このミキさんの考えは、私たちCo-wardrobeの考えとも完璧に一致します。
私たちも、「障害や病気を抱える人々が、健常者と同じ選択肢・同じ価格帯の中から、服を選んでファッションを楽しめる」、そんな世の中を作りたいと考え、活動しています。
Co-wardrobeは、YUNA+さんや、他にも同じような考え方でお直しを行っている方々を全面的に応援し、世の中にもっと広がっていくための活動をともにしていきたいと考えています。
一人でも多くの前開きのお直しを必要としている人の手に、YUNA+さんのお直しが届くことを願っています。
以上、読んでいただきありがとうございました。
記事の感想やミキさんに聞いてみたいことなど、ぜひ下のコメント欄に記入をお願いします!
ユナプラスさんの記事をたまたま読み、居ても立っても居られなくなりコメントさせていただきます。
ゆなさんは私の息子の小学校の同級生です。ゆなさん親子とは面識はないのですが、ゆなさんの事故は息子とゆなさんが入学して1か月くらいの痛ましい事故だったので、ずっと覚えていました。昨年の卒業式だけは6年ぶりくらいに参加されていて、ここまでどうやって介護なさってきたのだろうかと思っていました。そのお母さんがご自分の経験から起業されていることに、ただただ感動でした。
この記事のおかげで、ゆなさん親子のその後を知ることができました。コワードローブさんの活動は、きっとコワードローブさんが知らないところでも、いろんな人をつないでいるのではないでしょうか。これからも活動を応援しています。