井上ミチルさんと服の話
井上ミチルさん(上肢障害、30代女性)に、服の工夫・悩み・おすすめ・こだわりについて聞きました。
質問:あなたの基本情報を教えてください
★障害について★
私の障害者手帳を見ると、『左上肢機能全廃』とあります。左腕全体(肩から指先まで)が全体的に麻痺している、という意味です。とはいえ全く動かないのではありません。しっかり力が入る箇所と、全く入らない箇所の差が激しい、という状態です。
★障害の原因★
私の障害の原因は、出生時の事故による神経の破損。赤ちゃんは生まれるとき、まず頭をお母さんの身体から出して、呼吸をしながら誕生します。私は途中で首が引っかかってしまい、左腕がいちばん最初に外の世界へ飛び出しました。それでお医者様たちがびっくりして、左腕を引っ張って助けてくれたのですが、大人の力で思い切り引っ張ったものですから、腕を動かすための神経(全部で7本あるそうです)のいくつかが破損してしまったそうです。
神経は、糸繰り人形を操るための糸のようなもの。その《糸》が切れたか潰れたかしてしまったのに、残った組織や筋肉がなんとかくっついて環境に順応するなんて、我が身体ながら生命の神秘です。すごい!
★障害の内容★
腕が肩から上まで上がらず、握力がありません。また、痛覚がやや鈍いです。特に、小指は鈍感です。痛覚がほぼないのではと思います。蚊に刺されても痒くないというメリットはありますが、左腕で採血や注射・点滴ができないため、病気になると不便です。何度も採血や注射が必要な状況になると、右腕に打つ場所がなくなって、足に注射をするはめになります。ですが、血流の悪さから痺れが出やすく、ひどくなると上半身全体に痺れが広がります。右腕が動かなくなると生活に支障が出るため、日々上半身を冷やさない工夫をしています。
★日常生活での不自由★
ほぼ生まれつきの障害ですので、普段は日常生活での不具合はあまり感じません。ですが、右手で日常生活のほとんどをカバーしているので、右手が怪我をすると、ほぼすべての日常生活で他の方にサポートしていただかなくてはならなくなります。なので、右腕が怪我をしないよう気をつけて生活しています。
私は子どもが2人いて、両手で手がつなげません。状況に応じてベビーカーや子ども用吊り輪、子ども用ハーネスを使用しています。ですが、万が一のときはどうするべきか不安なので、『もしも道路に飛び出してしまったときは…』『災害時に避難するときは…』と、シミュレーションしています。自宅周辺だけではなく、よく行く場所周辺の災害時避難経路をお散歩がてら実際に歩き、心配事を少しでも減らすようにしています。
★服について★
身長は162cm、通常選ぶ服のサイズはトップスがMサイズ、ボトムスがLサイズ、シューズが24.5cmです。
服の着脱は、自分で行っています。右手をメインに日常生活を行っていますので、ボタンなどもすべて右手で脱着します。背中側のチャックなどはひとりで閉められないので、そういったタイプの服を着ないか、他の方に手伝ってもらいます。
質問:お気に入りのトップスアイテムと、その理由を教えてください
Gapのセーターがお気に入りです。
Gapのお洋服はベーシックなデザインが多く、品質が良いので長く使えます。シックな色合いのものもありますが、ポップでカラフルなカラーも豊富なので着ているだけで気持ちが明るくなります。
アメリカ発のメーカーさんなので、サイズが少し大きめです。例えば、普段Mサイズの私だと、Gapの服はSサイズがピッタリであることが多いです。
左右で腕の長さが違う私は、袖が長めのお洋服を着ると左側の袖がだいぶ余ってしまったりするのですが、Gapのお洋服はそこまで長くならず、ゆったり着られます。
質問:お気に入りのトップスアイテムと、その理由を教えてください
H&Mのセーターがお気に入りです。
H&Mのお洋服はシンプルなデザインからユニークなデザインまでそろっていて、カラー展開も豊富なのでコーディネートしやすいです。お手頃価格も重要ポイント。きれいに身体のラインが出るデザインが多いです。
でも、身体を締め付けすぎません。軽くて暖かく、ホームクリーニングでケアしやすいです。
質問:お気に入りのボトムスアイテムと、その理由を教えてください
UNIQLOのレギンスパンツがお気に入りです。
ストレッチが効いていて、よく伸びます!小さい子どもを抱っこひもで抱っこしたままトイレへ行ったりもするので、ウエストがゴムになっているレギンスパンツがとても重宝します。
ですが、ウエストゴムがかなりぴったりめで、両手で引っ張らなければ履けないタイプのレギンスパンツですと、履くまでに時間がかかってしまいます。UNIQLOのレギンスパンツはやわらかくて、履きやすい!
ベーシックなデザインが多く、コーディネートしやすいです。
質問:お気に入りのボトムスアイテムと、その理由を教えてください
E hyphen world gallery(イーハイフンワールドギャラリー)のスカートがお気に入りです。
ちょっと個性的なデザインや、カラー展開が魅力的なメーカーさんです。こちらのスカートはシワが寄りにくく、ホームクリーニングしやすくて重宝しています。
オフィスカジュアルにも着回せます。こちらもウエストゴムのスカートですが、締め付けが少なく、片手で脱着しやすいです。
質問:お気に入りのバッグと、その理由を教えてください
AIGLEのGRANOBLE 10L(リュックサック:写真左)と、RICCI EVERYDAYのアケロバッグ(ショルダーバッグ:写真右)がお気に入りです。
私は左腕の血流が悪いため左右バランスが悪く、ひどい肩こりを起こしやすいので、身体を冷やさないことと、肩や腕に負担をかけないことに、色々な面で気をつけています。
バッグの選び方も、気をつけていることのひとつ。肩に負担をかけないバッグを選んでいます。
★リュックサック★
片側にかたよって負担をかけてしまいがちなショルダーバッグはなるべく避け、リュックサックで出かけることが多いです。そのなかでも登山用のリュックサックは、重さを分散してからだに負担がかからないよう工夫されているので、重宝します。10Lくらいの容量で、500mlのボトルとおむつポーチ、子どもの着替え、おやつなどがスッキリ入ります。大きさもちょうどよく、邪魔になりません。
★ショルダーバッグ★
ハンドル部やベルトが短いタイプのショルダーバッグなど、片方の肩にかけるタイプのバッグは、左右バランスが悪くなり、バッグをかけている方の肩に負担がかかるので、なるべく避けています。ですが、やっぱりショルダーバッグはおしゃれなデザインのものが多く必要になる場合も多いので、軽いものを選ぶようにしています。
その中でショルダーバッグはRICCI EVERYDAYのアケロバッグを愛用しています。布製で軽く、アフリカンファブリックの大胆なデザインが大好きです。布製のバッグはとても軽く、やわらかいので、使いやすいです。ウガンダの女性や元少年兵の方々がバッグの作り手さんとしてご活躍されていて、すべて手作業仕上げというのも魅力的です。
軽量のバッグを選ぶ際は、金具や装飾が多すぎないものを選ぶのもポイントのひとつです。実際にお店で持ってみて判断するのをおすすめします。
質問:お気に入りのシューズと、その理由を教えてください
NIKEのスニーカーがお気に入りです。
左上肢の障害とは異なるのですが、私は足の形が独特で、人差し指が長いのです。ですので、靴選びに苦労します。人差し指が平均よりも長いので、ピッタリサイズの24.0cmを履くと人差し指が痛くなってしまい、24.5cmを履くと少し大きめで歩きにくかったりします。
私の個人的な感覚ですが、NIKEやリーボックのスニーカーはやや細身に作られていて、24.5cmでも負担なく履けます。
質問:お気に入りのインナーと、その理由を教えてください
UNIQLOのエアリズムインナー全般がお気に入りです。
ワイヤー入りの下着はシルエットがカッコよくキマるのですが、身体を締め付けるので血流が悪くなってしまいます。エアリズムは汗をかいてもサラサラで、熱がこもらないので、季節問わず重宝します。冬は、ヒートテックを重ね着します。
また私は左右の筋肉量が違うので、バストサイズにも左右差があります。ワイヤー入りのインナーですと、どちらかのバストサイズに合わせて着用するため、ワイヤー位置がずれてしまって痛みが出たりもしていたのですが、カップ付きインナーですと、紐の長さを調整してサイズ感を変えられるので、無理なく着用できます。
質問:もう1つ、お気に入りのアイテムを教えてください
モンベルのフリースインナーグローブ(写真右)と、フリースネックウォーマー(写真左)がお気に入りです。
私は左手を冷やさないように、できるだけ手袋をつけて行動しています。モンベルは登山用品の専門メーカーで、このフリースのインナーグローブは本当は冬山登山の際にオーバーグローブ(スキーグローブのようにガッチリした手袋)の下にはめて使うものだそうですが、とても暖かくて手袋をつけているのを忘れてしまいそうなくらい軽くて薄いので、私は普段の生活で重宝しています。
同じモンベルのネックウォーマーも便利!パッとバッグに入れて持ち運びしやすいです。フリースなのに静電気が起きにくいのも嬉しいです。登山用品ならでは!の品質です。ポップであざやかなカラー展開で、差し色にもGoodです。
質問:店舗で服を買物する際の工夫を教えてください
子どもを連れて行くときは、右手がふさがってしまうことが多いので、ある程度お目当ての商品をインターネットショップなどで確認してからお店に行っています。
サイズ感がわからないときは試着をさせてもらい、肩が落ちないか(肩幅に左右差があるので)、袖が長すぎないか(袖をまくることで調整できるか)を確認しています。
セーターなど厚みがあるお洋服は、袖をまくるとボコッとなって目立つことがあるので、袖口にゴムが入っていて軽く留められるデザインのセーターを選ぶか、薄手のものを選んでいます。
質問:通販で服を買物する際の工夫を教えてください
インターネットショッピングはよく利用します!サイズ感を確かめたいときは、ネットショッピングを利用する前に実店舗へ伺って試着させてもらい、購入するか、自宅で試着できるサービスを利用します。また、海外メーカーさんですと、日本サイズとサイズ感が違うこともあるので、口コミを検索し、実際に購入された方が感じたサイズ感を参考にします。
質問:服やファッションの情報をどのように収集していますか
以前はファッション雑誌を読んでいましたが、最近はInstagramを見てコーディネートを参考にしています。特に、育児中ママにおすすめのお洋服や、動きやすいコーディネートを参考にしています。またハイキングが大好きなので、『ランドネ』など、アウトドア雑誌のコーディネートを見るのが好きです。
質問:服に関することで、何か要望や願望はありますか
どうしても、たくさんの方が購入するデザインの服=流行のデザイン、に偏ってしまいがちなのかもしれませんが、『身体に負担をかけない』ファッションがもっと一般的になればなあと思います。
血流が悪い私だから、身体を冷やさないよう気をつけるのではなく、身体の冷えは他の方にとっても大敵です。特に女性は冷え性が多く、体調不良や腰痛の原因にもなったりします。ですが、『身体に無理をさせない』お洋服は、ちょっと地味なデザインが多い…。
身体のラインを出す=スタイリッシュ、モダン、カッコいい!だけではなく、身体のラインを出さなくても、おしゃれに、スタイリッシュに、カッコよく『冷えと戦う』お洋服のデザインが増えればなあと思います。
質問:最後に、読者の方にメッセージをお願いします
私が障害者だから、というだけではなく、世の中で『スタンダードとされているもの』に違和感と、不甲斐なさを感じている方は多いのではと思います。
皆が取りこぼされることなく胸を張って暮らしていける、自分を探すのではなく、『これが私自身だ』と自然体で生きていける社会が実現できたら心からうれしいです!
ダイバーシティ=多様性と訳されますが、その本質って何だろう?とずっと考えていました。多様性ってそもそも何だろう?日本語は母国語のはずなのに、わかるようで、わかりません。
ですが、多様性とは、《皆が嘘をつかなくても良い社会》なのではないかと思います。
だれもが、『隠したい』『私はここが弱い』『こういうところがスタンダードじゃない』部分を持っているのではないでしょうか。
ある程度の抑圧やストレスは、人生のちょっとしたスパイスになって、次のステップへと進む推進力になりえます。
けれど、あまりにも強すぎる自己批判や自己嫌悪は、本来の自分自身を見失ってしまう原因になってしまうのではないでしょうか。
ダイバーシティ=多様性=「私って○○な面で弱い人間なんですよねーアハハ!」と、笑って言える社会に。だれもが強くなくていい、自分のネガティブな部分も安心して、オープンにできる社会に。そんなカラフル社会を実現する皆様の一員になれたら!と思っています。
★SNSやってます★
Twitter @inomichi_2020, Note @inouyemichiru, Instagram @inomichi_2020
ご訪問いただけましたら、とってもとってもうれしいです♫
また、「ココダイバーシティ・エンターテイメント(https://coco-de7.com/)」という障がいや難病を持っている人が所属している芸能事務所にも所属して活動しています。こちらの応援もよろしくお願い致します。
おわりに
井上ミチルさん、ありがとうございました!
記事の感想や井上ミチルさんに聞いてみたいことなど、どんなことでも構いませんのでお気軽に、ぜひ下のコメント欄に記入お願いします!
※名前はニックネームや無記入でも大丈夫です。また、メールアドレスやサイト名も無記入で大丈夫です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!